vol.04 妻恋し独り飯
静岡に単身赴任となって丸2年。結婚するまで実家暮らしだったため、40すぎまで自炊経験はゼロ。米の研ぎ方も、卵の割り方も幼稚園児レベルだった。
赴任当初は外食やお弁当に頼っていたが、定期検診でメタボと診断されてからは、「できるだけ自炊するように」と、妻が食料品を詰めた小包を送ってくるようになった。
米に乾麺、缶詰、インスタント食品に混じって、ある日クール便で届いたのが長崎魚の干物セット。カマスの一夜干しにアジ、サバ、サワラとバラエティに富んだ魚が箱いっぱいに入っていて、思わずお腹がグーと鳴った。
「よ〜し、今夜はこれで一杯やるか」。
さっそく台所に立ち、まずはカマスを魚焼きグリルへ。ビールと冷や奴をテーブルに並べ、あとは焼き上がるのを待つのみ。妻の差し入れのおかげで食卓は豪華になったが、残念ながら独りめしの寂しさは変わらない。
毎晩、家族のために食事を用意してくれていた妻に、俺はねぎらいのひと言でも伝えたことがあっただろうか。干物があまりに美味くて、つい本音を妻にLINEした。
「干物ウマカッタ。だが、独りめしは味気ない。お前の手料理が恋しいと思う♡ 孝之」。