vol.03 オヤジたちの宴
平日の昼間、妻はよく「ランチ」に出かけている。今日はママ友、あさってはパート先の仲間、月末はママさんバレーのメンバーと、よくまぁ食べ歩く相手がいるもんだと感心する。
セコい男と思われたくないからあえて聞きはしないが、「毎月ランチ代にいくら遣ってるんだ?」と、少ない小遣いをもらうたびに不満が喉元まで出かかる。だが、それを言っちゃ妻のご機嫌を損ねてしまうので、俺はぐっと我慢して財布に小遣いをしまう。さぁ、今月もこの少ない額でどうやりくりしようか?
リッチな妻族に対し、薄給のオヤジたちの社交場といえば、安くてうまい酒と肴を出してくれる居酒屋だ。行きつけの酒場は店主が同級生ということもあり、行くと必ず裏メニューを出してくれ、気分よく酒を飲ませてくれる。
「持つべきものは金じゃなく友達だよな」と言いたいところだが、言って様になるのは勝ち組の連中。「俺は人生のいつ頃、どのあたりで勝ち組から遠のいちゃったんだろうなぁ」とぼやくと、「人生に勝ちも負けもないさ。自分の城を守れれば、それでいいじゃないの」と上司の田中課長がすました顔で言う。「でも、今世の天下人は女性ですよね。僕は自分の奥さんが怖いッス」と言って、後輩の松本は苦笑いした。
オヤジ3人がヨメの文句を酒のつまみに盛り上がっていたら、「もっとうまいつまみがあるぞ〜」と言って、店主がイカの一夜干しを出してきた。焼き目の香ばしさと干物独特のぎゅっと凝縮された旨みがビールとよく合い、ついつい飲みすぎてしまった。
「時々はヨメさんと飲みに来いよ。子どもも大切だけど、夫婦水入らずの時間も大事だぞ〜」。
くたびれたオヤジたちの耳に店主の声は届かず、俺たちは次の社交場へと向かった。