vol.01 ふたりの田舎ぐらし

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3年前、念願の庭付き一戸建ての中古物件を購入した。都会じゃネコの額ほどの広さの家しか買えない予算でも、ここなら夫婦2人で住むにはじゅうぶん過ぎる家が買えた。それになにより気に入ったのが、家の前に畑も所有できるという点だった。
素人百姓で始めた家庭菜園も順調で、季節の野菜やハーブを収穫するひとときは、都会で暮らしていた頃にはなかった至福の時間だ。

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満員電車で片道2時間の通勤をしていた頃は、食べ物の旬を意識したこともなく、食卓に並ぶ妻の手料理をただ黙って食べていた。それが田舎に越してきたのを境に、とれたて野菜のみずみずしさ、旬の魚や果物のおいしさに目覚め、マイエプロンにマイ包丁まで購入して、ぼくはすっかり料理男子になった。食の力で細胞レベルまで変えられた気がするのはぼくだけでなく、よく風邪をひいていた妻も病院に行くのは歯医者ぐらいという健康体になった。

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慣れ親しんだ環境や人間関係を手放した代償に、見えないものに感謝する心をいま2人で育んでいる気がする。天気のいい週末はあえて縁側でブランチしたり、夜は畑でビール片手にバーベキューもあり。
「せっかくなら干物は七輪で焼こうよ。こう、うちわでパタパタやるの、わたしやってみたかったんだー。焼き方のコツ、今度お店の人に聞いてこようっと」。
子どものようにはしゃぐ妻の無邪気さが愛おしく、少々焦げた干物もうまく感じる。おいしい空気と食のおかげで、ぼくら夫婦は今日も元気で仲がいい。

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「子どもができたら、ここに朝顔とか植えたいよね。そして、3人で花火やろうよ」。
ぼくは「うん」と頷きながら、もう少し夫婦水入らずの時間を楽しみたいと思っている。

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